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ハイデルベルク・フィルハーモニー/岡山第九を歌う会


2000年10月30日(月)PM7:00〜岡山シンフォニー・ホール

Mozart
歌劇「魔笛」序曲

Beethoven
交響曲第9番ニ短調 作品125「合唱」

トーマス・カルブ/ハイデルベルク・フィルハーモニー/岡山第九を歌う会
高橋昌子(s)堪山貴子(a)日高好一(t)秋山啓(br)

当日券C席3,000円

 「おかやま後楽園300年祭記念」とのこと。この演奏会は、ある日テレビの深夜番組をぼんやり見ていて発見したもの。月曜日は仕事が忙しい日だし、3,000円だし、どうしようかなぁ、と少々悩みました。でも、ハイデルベルク・フィル(存在すら初めて知った)には興味があったし、市民合唱団は応援したいし、10年以上聴いていない「第九」もナマで経験したかった。当日は、朝から根性入れて仕事を精力的にこなしました。

 「年末は第九」〜いいじゃないですか、完全に俳句の季語にもなっている日本の素晴らしき風習。ヨーロッパ辺りのクイズ番組で「日本では毎年年末になると、全国各地でBeethoven の第9交響曲が演奏され、一般市民がボランティアで合唱に参加する風習がある、これウソ?ホント?」なんていう、出題がされたとして「ホント」と回答する人はいるでしょうか。素晴らしい。世界に自慢できる。

 2000人以上は入る大きなおかやまシンフォニー・ホールですが、ワタシが行く演奏会はだいたい多くて1,100人くらいなんですよ。当日は最上階(はっきり言って少々恐ろしいくらい高い)までかなりのお客さんで、1,800人くらいは入っていたんじゃないかな?しかも、一番安い席で3,000円でしょ?ワタシの想像では、合唱団が300人以上いたから「ひとり親戚4枚」ほどチケットをさばけば相当な動員になるはず。

 観客の女性も着飾っていて、(シックな着物に白髪を紫色に染めた素敵なおばあさんもいらっしゃった)いい感じ。但し、一番上の3階まで階段で上がるのはご高齢の方にはキツイはず。「ウチのこどにも教養を」というもくろみか、小さなお子さんもいらっしゃる。(いつものことながら、演奏中に悩まされました)

 ハイデルベルク・フィルはドイツ在住の方にも知られていない存在で、LP時代「若き日のMozart 」とかいう題名で、ハイデルベルク室内管のLP(3枚組くらいだったはず、CBS)を持っていましたが、その団体とは違うのでしょうか。パンフレットによると110年ほどの歴史があるとのこと。

 で、オーケストラが舞台に登場すると50人ほどの「室内管」サイズなんですね。(打楽器は現地雇いのエキストラでしょう)演目がちゃんと出ていなくて、演奏が始まったら「魔笛」でした。速いテンポで、さっそうとした演奏。弦のバランスが小さくて、管が目立つ。(弦が少ないから)プロだから当然の技量があるが、「ハイデルベルク室内管」の記憶に近い。つまり、響きが薄く、潤いが足りない。でも、勢いは買える。指揮者が若いからでしょうか。

 なぜ「序曲」が冒頭にあるかといえば、遅れてくる人がいるからなんでしょうねぇ。休憩なしで「第九」が始まる前に相当数入場してきました。(演奏中に席を立ったりするのはなんとかならんでしょうか)「演奏中のカメラ撮影はご遠慮下さい」なんてアナウンスがあったけど、かなりの人がデジタル・ビデオを回しておりました。

 「第九」が始まると、やっぱり、これ別格の名曲だなぁと感心します。アマ・オーケストラだったら「ナマの音」というだけで満足するけど、(今回は3,000円も払っているし)どうしても厳しく見てしまう。速いテンポ、というのは「魔笛」と同じなんですが、スッキリとした軽快なオーケストラの響きを生かした演奏にはなっていない感じ。

 管に比べて、弦の薄さをカバーするためか、力んでいるようでもあり、結果「濁り」が気になりました。ジンマンばりの速いテンポ、余計なルバートも付けないのもよろしいでしょう。ときどき、早すぎてアンサンブルの縦がずれて流されてしまうのは気になる。解釈としては、最近の古楽器演奏を思わせます。(遠くて確認できませんでしたが、フルートは木製だったんじゃないかな?)

 スケルツォはハツラツとして、推進力がある。しかし、感想は上記と同じ。むしろ、アダージョが静かな楽想にリキみがなく、飾りのない表現が新しい魅力を伝えます。

 終楽章は、最初オーケストラがバラバラの楽想をつぎつぎと繰り出すじゃないですか。これも、美しいとは言えない。で、「喜びの歌」の旋律がコントラバスから始まって、弦全体に引き継がれ、やがてオーケストラ全体にしみ通っていく。この辺りから、精神的準備が出来て、いよいよ合唱です。

 「おお友よ!」のバリトンが重量感があってよろしい。しかし、合唱がもっと凄い。はっきり言って、こんな合唱主体の「第九」演奏は初体験。一発目の合唱の呼応「友よ!」から、会場の空気をふるわせる圧倒的AURAが顔にモロにぶつかります。なにせ、子供の頃から慣れ親しんだ曲でしょう、心の中でずっと一緒に歌ってました。真摯に、心を込めて歌っているのが伝わって、心が洗われるような感動の嵐。

 4人のソロの方々の声量の凄いこと。マイクなしでしょ。オーケストラと大合唱に一歩も引かない。正直言って、終楽章は合唱しか聴いておりません。オーケストラは完全に伴奏で、訓練された合唱のアンサンブルに声も出ないほど幸せな気分。それにしても、あの怒濤の快速特急解釈によく付いていきました。

 300人を越える大合唱団は、真ん中に黒いタクシードの男性群、両翼に白いドレスの女性群を配置して、美しい。その前の4人のソロが並びますが、女性のドレス(たしか一番左のソプラノはグリーンがベース?)がとても映える。

 後ろの小学校低学年の男の子が演奏中におしゃべりしたり、オペラ・グラスをマラカス風にシャカシャカさせたりするのには閉口しましたが(親御さんは注意して下さいよ)、演奏終了時に思わず「ブラヴォ」と低く叫んだら、周囲の人々が引いてました。(すみません)

 で、いつのまにか年の瀬を迎えるんだなぁ。日本人ならお茶漬け(ちょっと古いか)だけでなく、「年末は第九」で行きましょうよ。3,000円(+タクシー代1,180円)の出費は痛いが、これは人生の価値観なので文句なし。一回飲みに行けば一万円くらい吹っ飛ぶことを考えれば、なんのその。

(付録)第一ヴァイオリン最後部座席、黒いミニ・ドレスの女性が素敵でした。ただ、あまりにワタシの席からは遠くてよく見えなかったのは残念。奮発して最前列に行くべきであったか?


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written by wabisuke hayashi